人形佐七捕物帳024
意外な結末！法を超えて悪を裁く
「いなり娘」（横溝正史）
（「完本 人形佐七捕物帳二」）
春陽堂書店
朧月夜の雑司ヶ谷、草深い道端で
不思議な娘と出会った
佐七と辰･豆六。
娘は狐を探しているのだという。
道に迷い、再びその場所に
立ち戻った三人は、
胸に血痕をつけた
若衆を見つけるが、取り逃がす。
そこには先ほどの娘の死体が…。
人形佐七捕物帳第二十四話です。
朧月夜の道に迷い、
同じ場所を堂々巡りしている
佐七と辰･豆六は、
まるで狐に化かされたように
感じていたところだったのです。
そこに現れたのが、この｢いなり娘｣。
その設定は
しゃれが効いていて面白いのですが、
事件の結末は
意外なものになっています。
【捕物帳〇二四｢いなり娘｣】
お紺
…いなり娘。いなり鮨屋の看板娘。
逃げ出した狐を探している途中に
殺害される。
お市
…お紺の妹。お紺の死後、
いなり鮨屋を手伝いに来ている。
伝吉
…いなり鮨屋の店主。
お紺の死をあまり悲しんでいない。
秋葉の芳蔵
…江戸城の金蔵を破り四千五百両を
盗んだ盗賊。牢死している。
閻魔の五郎蔵
…牢を出たばかりの男。
いなり鮨屋ともめ事を起こした。
魚崎兵庫之介
…お役御免となった元北町奉行与力。
いなり鮨屋で飼育している狐を
百両で買い取る。
秋葉の芳蔵を取り調べた。
春本歌女寿
…霊狐術の一座の女太夫。
神崎甚五郎…八丁堀の与力。
辰･豆六…佐七の乾分。
佐七…人形佐七と呼ばれる御用聞き。
本作品の味わいどころ①
横溝のしゃれっ気！全篇狐づくし
佐七たちが狐と勘違いした娘は、
なんと狐を探していた。
名前は狐の鳴き声のような｢お紺｣。
いなり鮨屋の看板娘。と、
コントでも始まるような
｢いなり娘｣の人物設定です。
もしかしたらこの｢いなり娘｣が
横溝特有の化け物キャラとして
活躍するのかと、
ドキドキして読み始めたのですが、
序盤であっけなく
死体で発見されてしまいます。
こちらは事件の雰囲気を
おどろおどろしくするための
仕掛けであり、横溝の得意とする
舞台づくりの一環です。
この雰囲気をまずは味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
暗躍する悪党たち！百両の狐の謎
事件の核となっているのは
｢いなり娘｣その人ではなく、
彼女が探していた｢狐｣なのです。
いなり鮨屋に飼われている
狐なのですが、なんとそれを
百両で買おうとする人間が
現れるのですから、
胡散臭さが漂います。
百両の狐のまわりに
悪人がそろったところで
事件は動き出すのです。
お紺の一件の裏で
暗躍する悪党たちこそ、
本作品の味わいどころの二つめです。
本作品の味わいどころ③
意外な結末！法を超えて悪を裁く
佐七･辰･豆六に神崎が加わり、
怪しい男を追い詰めるのですが、
捕縛には至りません。
かといって
取り逃がしたのでもありません。
悪人はしっかりと裁かれます。
しかし法の裁きではなく、
復讐もしくは私刑という形で
鉄槌が下されるのです。
ある意味で
溜飲が下がる結末でありながら、
一種の空恐ろしさも感じさせる、
なんともいえない筋書きです。
だからこそ味わいがあるのです。
この、何でもありの設定こそ、
捕物帳の面白さなのでしょう。
現代では、さすがにこれで事件が
片付いたという訳にはいきません。
さて、このいなり鮨屋は
雑司ヶ谷の鬼子母神境内にあります。
鬼子母神といえば、
もとは残虐な性格だったのですが、
改心して釈迦に帰依した
女神といわれています。
その鬼子母神のような人物が
悪を裁くのも、
横溝の技ありの設定です。
なかなかに味わいのある人形佐七、
ぜひご賞味あれ。
（2021.11.28）
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